何でも正直に話す人がいる。
正義を前面に出す人がいる。
その事自体は、正しい、疑いの余地はない。
でも、大事な事が抜けていないだろうか……
ある工場での物語、不良多発の原因は?
例えばの話、工場でモノ作りをしている場合。
ある日、突然、完成品の歩留まりが急激に低下し始めたとする。
品質管理の担当者は工程を調査、ある工程の品質が極端に低下しているのを突き止める。
更に追求していくと、それは作業者起因でありことがわかった。
Aさんが担当したロットのみ、極端に品質が悪いのである。
今回要因分析を担当したのは、正直が取り柄の優秀な品質管理課のB君。
これまでも、数々の品質向上の実績があり、社内でも一目を置かれる存在である。
緊急品質会議の席上、報告したB君は自信満々に言った。
今回の歩留まり低下の原因は、X工程担当のAさんです!
B君は、Aさんが原因であることを裏付ける完璧なデータを次々と提示していった。
問題を起こしたX工程の責任者は、班長のCさん。
プライド高く出世欲が強い、若手のリーダーである。
自身が担当する工程が、今回の品質トラブルの原因であることに強い衝撃を受ける。
それは、良いモノを作り出したいとの製造マンとしての誇りからではなく、出世の足を引っ張られると思ったから……
大変申し訳ございませんでした!
早急に改善し、明日までに計画数量を挽回します!
Cさんは工場幹部が出席している会議で、大声で元気よく宣言したのであった。
Cさんがとった行動は、自分の出世のため、上司のご機嫌とりのためであることは、次の点からも明らかだ。
- 自分の部下であるAさんのフォローは一切なし。
- 人ではなくシステムなど真の原因調査を要望していない。
- Aさん本人や工程メンバーに状況確認をしていない。
良し、頼んだぞ。 これでM社への納期は間に合いそうだな。
工場長は、Cさんの宣言に満足げであった。
単なる正義はむしろ悪、人を陥れる⁉
会議終了後、ダッシュで現場に戻った、X工程班長のCさん。
工程を止めろ! 全員集合だ!
いきなり大声で叫んだCさんに、メンバー全員が驚く。
A! お前何やってんだ!
物凄い罵声が工場全体に響き渡る。
「完成品の歩留りが悪化したのはお前のせいだ!今から担当を外れろ!お前は何もするな!他のメンバーはAの分も頑張ってくれ。」
「それと、今日中に計画分は挽回する。計画達成まで帰れないからな!」
誰も意見を言わない。
と言うか、誰にも言わせない。
班長Cのいつものやり方だ。
メンバーウケは悪いが、上司ウケは良い。
Cさんの目線は常に上司だ。
製造マンとしての誇り高きAさん、自分が原因であることにショックを受ける。
いつの間にか、現場からいなくなっていた……
数日後、会社には長期療養が必要との医師の診断書が届けられた。
精神的に不安定になったとの事だった。
Aさんは、物静かで目立たない性格であるが、手先は器用で、仕事ぶりは丁寧だった。
製造マンとしての誇り、良いモノを作りお客様へお届けする喜びを常日頃から語っており、工場メンバーからも信頼されている人物であった。
正義とは物ではなく、人に向けるものだ
そんなAさんだけが不良を出すのはおかしい。
何か他に原因があるのではないか?
工程メンバーの想いは一致し、休日に集まり、独自に原因調査することにした。
現場に放置されていた不良の山。
それを観察し、メンバー誰もが気づいた。
同じ所に欠陥がある。 治具がおかしいのでは?
Aさんが使っていた治具を確認すると、推測が確信に変わった。
不良の要因はAさん本人ではなく、Aさんが使っていた治具にあったのだ……
数日後、窮地を脱した功労者として、品質担当のB君と工程班長のCさんが全員集会で事業部長から表彰された。
工程メンバーからの報告、「真の原因は、Aさん用の治具」について、Cさんは上司には報告していない。
せっかくの大手柄を別のストーリーにはしたくないのだ。自身の出世のために……
それは、品質担当のB君も同じ。
この二人はその後、それぞれの部署で発言力を強めていった。
一方、心を病んでしまったAさん、現場復帰の見込みは立っていない……
何が原因で正義の暴走を許したのか?
ここで私は考えたい。
正直な品質担当B君の正義は正しかったのだろうかと……
正直が悪いとは思わない。
嘘の方が良いなんて、決して思わない。
ただ、それよりも優先すべき事があるのではないか?
それは、「人」だ。
名指しで批判をした場合、次に起こる展開として、本人が追求にされられる事は想像に難くない。
例え、本人に非があったとしても、その選択は正しいのだろうか?
「人」が「人」を窮地に陥れる。
それは、共に働く仲間として正しい方法だろうか?
私が品質担当者であったなら、X工程全体のデータ提示にとどめ、
詳細については調査中です。
はっきりしたことはまだ分かりません。
と報告しただろう。
なぜ、Aさんだけが不良を出すのか?
この疑問を問い続ければ、治具要因であることにたどり着いたはずだ。
不良停止には時間がかかったかもしれないが、Aさんが長期療養する事はなかったはずだ。
- 「人」に勝る優先事項なし
- 「人」のために、時には嘘を通すことも、人間として大事ではないか……
こんな事だから、私は万年平社員なんでしょうね、でも罪のない人を陥れての出世なら、こちらからお断りです。
まとめ
正直、正義は大事である。
このことに疑いの余地はない。
ただ、正直、正義より優先すべき事がある。
それは、「人」
人が人を裁くような状況が想定されるなら、正々堂々と嘘をつく。
なぜ、その人が、そんなことをするのか?
「人」を信じることで、真の原因が見つかるかもしれない。
名言からの気づき
どんな馬鹿でも真実を語ることはできるが、うまく嘘をつくことは、かなり頭の働く人間でなければできない。
by バトラー
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